ハインツ科学・経済・環境センター編 * 青山己織訳 

*岩波書店 2004年2月13日 発刊 定価2800円* 

  アメリカには世界最大の76000基のダムがあり、これまで水力発電のほか農業用水、内陸交通、治水、飲料水、工業用水などに利用されて、米国の経済的な発展に少なからず貢献してきたといわれています。
  しかし一方でダムは自然の水系を変え、川を分断し、多くの河川や氾濫原を埋没させてしまいました。またダムは川辺や水系の生息地を変化、消失させてしまいましたが、その中には絶滅の危機に瀕した植物、動物、鳥や魚を支えてきたものもあります。さらに多くのダムがその使用に耐えうる寿命を越えようとしており、その安全性やメンテナンス経費も見直されなければならない状況となってきました。また、都市化やさまざまな開発によって、危険な状況となっている所もあります。
  このような問題を解決するための選択肢として、昨今「ダム撤去」はより広く受け入れられるようになってきたのです。現在のところアメリカの川から撤去されたダムの数は少なくとも 500基は越えていると言われていますが、今後その数はますます増えていくだろうと考えられています。
  本書はハインツセンターによって組織された地理学、経済学、工学、環境法、州と連邦の行政官、環境コンサルタント、水力工学、ダムの安全性、水力発電、水性生態系管理などの専門家によって書かれており、ダムの所有者、自治体、市民などがダム撤去の決定を下すための手助けとなるように、ダム撤去によって起こるであろう環境的、社会的、経済的結果やそれぞれのケースにおいて指標とすべき環境的、社会的、経済的データを提示しています。
  アメリカと同様に、日本でもおよそ lang=EN-US>1500基ある大規模ダムのうち100基以上が築90年以上を経て老朽化しており、安全性・コストの面からも、今後「ダム撤去」の論議が避けられない状況となっていることは最近広く知られるようになってきました。本書がめざすのは 「ダム撤去あるいはダムの存続のいずれかを提唱しているわけではなく、あくまでも客観的な視点から入手可能な限りの科学的情報を提供することである。なぜなら、最高の意志決定はまずできる限り知ることから生まれるとの信念に基づいているからである」と序文にも述べられているように、これまでに類のない科学的に緻密で客観的な「ダム撤去」に関する報告として、ダム賛成派・反対派を問わず、各自治体・国土交通省の関係者、市民団体、NGOなどにとっても必携のハンドブックとなるでしょう。
 も く じ 

日本語版への序文    デイビッド・ウェグナー

序文

本書の概要

1 本書の背景について   

1 研究の目的と見通し/ 2 アメリカのダム国勢調査/  3 ダム建設の理由/  4 今ダム撤去の理由/  5 アメリカで撤去されたダム/  6 ダム撤去の科学的リサーチの現況/  7 結論と勧告

2 「ダム撤去」の決定

1 ダム撤去の経済学/  2 情報に基づく意志決定
/ステップ1〜ステップ6 データの収集、意志の決定から評価まで /結論と勧告

3 「ダム撤去」の物理的結果

1 物理的完全性とはどういうことか/  2 河川の空間的・時間的状況/ 3 河川の分断/  4 河川の水文学/  5 ダムの堆積物/  6 地形学/ 7 水質/ 8 結論と勧告

4 「ダム撤去」による生物学的結果

1 水生の生態系に対するダム撤去の潜在的な影響/
2 水生生態系の再生計画―再生に影響を与える要因/地表と水辺の植物相の再生/河川の浄化能力/水辺の特徴と土地利用/生物相のサイクル/水質など/ 3 結論と勧告

5 経済学と「ダム撤去」

1 「何もしない」という選択/ 2 ダム撤去の結果の評価/  3 撤去によるプラスの結果/4 撤去の負の結果/ 5 ダム撤去の経済的分析への挑戦/6 結論と勧告

6 「ダム撤去」の社会的側面

 1 美観と社会的価値/   2 アメリカ合衆国におけるダムとネイティブ・アメリカンの文化/   3 ダム撤去事業の社会的影響評価/   4 結論と勧告

7 「ダム撤去」に影響するアメリカの法律

1 水力発電ダム/  2 ダムの安全プログラム/  3 自然のシステムの保護/  4 ダム撤去に影響を与えるその他の法律

将来に向けて

解説1 日本のダム撤去の社会的側面
           保屋野初子 (ジャーナリスト)

解説2 日本のダム撤去の生態学
           粕谷史郎 (岐阜大学地域科学学部教授)

付録・著者紹介

  ※書籍の購入希望の方は→   |  岩波ブックサーチャーへ |  Amazon.co.jpへ |

戻る(閉じる)