日本の河川管理政策を変える

ダニエル・P・ビアード
元アメリカ開墾局総裁 2003年12月
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 2004年は、日本の河川管理政策に重要な変化をもたらす年となるであろう。
 
 1995年に私は始めて日本の地を訪れ、当時アメリカで起こっていた河川管理の
変化について議論した。その頃、私は世界で最も重要なダム建設機関の一つである
アメリカ開墾局の総裁を務めていた。

  私は当時のスピーチの中で「アメリカのダム建設の時代は今や終わった。」と述べた。
ダム推進派はすでに大規模ダムの建設に対して市民や政治的支援を得られなくなって
いたのだ。そして私はその時にダム建設の時代が終わり、維持可能な河川管理と河川再生
を原則的指針とする時代がゆっくりではあるが到来するとも述べた。

  私のこのような声明は、日本や世界のどこにおいても多くのダム建設推進者にとっては
ショックや落胆を招いたようである。批評家達は私のコメントを単なる私評であり、今後
のトレンド示しているものではないと批判した。

  ところが1995年以降の展開はこのような批評家達が間違っていた事を立証すること
になった。アメリカ合衆国では新たなダム建設事業のための資金調達は消え失せてしまった。
共和党政権下の議会、ブッシュ大統領ですらこのトレンドは変えなかった。世界ダム委員会
が設立され、2000年には「大型ダムプロジェクトには技術的、財政的、経済的な面で
大きな欠落点がある。」と報告している。彼らの報告書は世界中の大型ダム計画に反対する
者達を強く反映しているのである。

そしてアメリカ合衆国においては、河川管理における新たなトレンドが現れつつある。
我々は河川の破壊ではなく、河川再生の時代に突入しつつあるのである。

  今や、我々はダムやその他の構造体が根本的には川やその周辺に暮らす人々を変えて
しまうことを知っている。ダムは役には立ってきたが、「あまりにも多くのケースにおいて、
ダムの便益を確保するために受け入れられない、不必要な代償が支払われてきた。」とする
ダム委員会の見解に私は同意する。

  アメリカでは、川の自然の状態を取り戻すためにダム、運河やその他のコンクリートの
建造物がどんんどん取り除かれつつあるのだ。健康な川は重要な生物学的原動力であり、
自然の生物学的完全性や地元の地域社会の暮らしにとって非常に重要なものである。

  このような方向に移行していくための鍵は、政府機関、NGO、研究者、ダム推進派、そして
ダム反対派の間での建設的な対話である。我々皆が一つの部屋に集まり、この問題について
議論を始めれば、意見の合意が生まれることが多いのである。そこでは、我々皆が建設的な対話
や樹立された協力関係から恩恵を受けることができるのである。

  このような対話に参加するのは時にはイライラするときもある一方で、その利益は大きな
ものである。アメリカ合衆国においては、関係者全てをこのような議論に招くことができた
時に、河川再生に向けての実質的な大きな進展を見ることができた。

  私は、日本は今その河川管理政策において大きな転換点に差し掛かったと感じている。
いくつかのダム建設計画は延期されたり、中止に追い込まれたりしている。さらには、
河川再生が議論されるべき重要な政策問題として受け入れられつつあるのだ。日本は世界
においてもダムの代替案を示すリーダーになることができるし、また、そうならなければ
いけない。

  このような昨今の情勢下で重要な新たな展開は「リバー・ポリシー・ネットワーク」の
設立である。この組織は日本の川の将来を考えるあらゆる組織の代表を結びつけるために
設立されたのである。政府機関、河川環境活動家、研究者や多くの市民が、日本の河川管理
の多くの面についての話し合いを本格的に開始するのである。
「リバー・ポリシー・ネットワーク」は、解決に向けて、対立的でない対話のもとで、
このような議論を促進していくのである。

「リバー・ポリシー・ネットワーク」はそのような議論の幕開けとして、熊本においては
2004年3月25日、名古屋では28日に重要な水資源政策に関するシンポジウムを開催する。
私はこの両方のイベントに参加することに合意している。
それは、「リバー・ポリシー・ネットワーク」が政府機関、河川NGO、研究者、そして市民との
重要な対話を始めようとしているからだ。この二つのシンポジウムが建設的な対話の時代の到来
を告げることになるだろう。

2004年が日本の河川管理政策の大きな転換点になることを心から願っている。


ダニエル・ビアード


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ダニエル・ビアードは30年以上もアメリカ合衆国の水資源政策問題に関わっており、
ホワイトハウス、アメリカ下院、アメリカ上院、大手環境NGOに従事してきた。
1993年にはクリントン大統領によりアメリカ開墾局の総裁に任命されている。
現在はアメリカ、バージニア州マクリーン所在の国際的コンサルティングファーム、
ブーズ・アレン・ハミルトンにて上級顧問として在籍。

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